まだ陽も明るい真昼間。飯を取りに戻った所を待ち構えていたシチロージに掴まり、半ば無理やり風呂へと入れられたのだが、それでようやく一息ついた。ヘイハチは言われて気がついたのだが二日ほど風呂に入っていなかった。ふらふらとその日暮らしの旅に慣れていると忘れているという訳ではないがおろそかになってしまう。それから何かに集中してしまうとそういった事にに中々気が回らなくなるのは自分の悪い癖だとは思うのだが、それを正そうと思ったことはない気がするなと、シチロージに引きずられながらヘイハチは思った。しかし何やかんやと動き回る仕事のために汚れも人一倍目立っていることに本人は気がついていない。その点蛍屋の生活に慣れたシチロージや、家を出て間もないカツシロウなどは良く気がつく。シチロージなどカツシロウよりも仕事は多いはずなのに性分なのか時間を見つければ進んでサムライ達の世話焼きに回っている。
久々の心地の良い休息で心身の疲れを癒しながら、襲ってくる眠気に思わず身を任せそうになってヘイハチは慌てて風呂を出た。心地よさに身を委ねたいところだが、まだ仕事は山のように残っていることはよく解かっている。
さて、現場へ戻ろうかと衣服を身につけてベストを片手に表まで出ようとすればキュウゾウが入ってきたところだった。めずらしいな、とヘイハチは濡れた髪を乾かすのもそこそこに足を止めて、
「キュウゾウ殿もシチさんに捕まったくちですか。」
というと、ぐぅ、とキュウゾウの腹が返事を返した。
「あぁ、そうか、あれはキュウゾウ殿の。ちょっと待っててくださいよ。」
風呂場の外の小さな棚の上に笹の葉に包まれて置かれた握り飯。キュウゾウが来ることを見越してシチロージが置いたのだろう。何もこんなところに置かなくても、お米が可哀相です、などと考えながらそれを取ってキュウゾウの元へ戻れば、キュウゾウは脱いだコートをきちんとたたんで傍らに置き、その隣へ腰掛けてヘイハチを待っていた。
「次寄った時に誰も手を付けていないようだったら食べてしまおうかと思ってましたよ。」
どうぞ、とその包みを差し出せば
「かたじけない。」
と今度は腹ではなくの口が返事をした。なんとなく微笑ましいなぁ、と思って動かずにいたら包みの紐を解くキュウゾウの手が止まって目線がヘイハチに向けられる。何か?と聞こうとしたところにぬっと手が伸びてきて思わず体を引こうとしたが、何故だか体は固まったままその手に濡れたままの髪をくしゃりと撫でられた。数回そうやって撫でると手はあっさりと戻っていった。 ぱちりと瞬きをするとキュウゾウの視線は手元のおにぎりに戻っていて、
「あの、じゃぁゆっくりというわけにもいかないでしょうが休んでください。次、中々取りに来ないようならそれ食べちゃいますからね、お米が可哀相です。」
そう告げてリキチの家を跡にした。森へと向かいながらさっきのキュウゾウのあれは何のつもりだったのだろうと考えて、むかし親や兄にされたそれに思い当たる。
「子供扱いされる年じゃないんですけどねぇ。」
と苦笑い。任された区画に集まる村人達を遠目に捉えて、ヘイハチはベストに袖を通しながら仕事へと頭を切り替えた。
ロールオーバーで元絵。
文は後付なんで手の感じのおかしさとか ていうか手がおかしいとか キュゥがうっかり知り合いに似ちゃったとかもう気にしない(気にしろ)
2006−06−03