夕暮れ時。半助は大家に町外れの知人とやらのところまで使いを頼まれて、もちろん断れるはずもなくそれをを預かって我が家へと戻るところだった。何のことはない、大家がその先の村へ行った帰りにへばったところをそこの主人が面倒を見たという。その時に何袋にも分けて持っていたという荷物を一つ忘れてきたので取ってきてついでに自分にかわって挨拶をしてきてくれというのだ。特に用事もなかったためそれを引き受けて例の家で荷物を受け取って、今はその帰り。ひときわ店が集まって商いで賑わっている区画の真ん中にかかっている橋まで帰ってきた。橋の先を曲がった川沿いに見慣れた横顔を見つける。
「おーい、きり丸〜!」
学園にいる時と同じに声を上げればその声に通りを歩くなかの数人が振り返って、しまったと思ったがそう思うには少し遅すぎた。振り返った人達にはははと笑いながらなんでもないです、と説明を添えてみてから目線を元に戻せばきり丸が大袈裟に片手を腰にそえて肩を落としながら大きなため息をついている。きり丸とようやく視線が合えばじとりとした目で頬をふくらませて
「やめてくださいよ、学園じゃないんだから。なんかオレが迷子みたいじゃないっすか〜。」
と言われしまい、半助はすまん、と一言それに返した。きり丸は「別にいいっす」と言いながら半助の手にあるひとつの包みに目を向ける。半助もきり丸に握られて下を向いているそれに目を向ける。
「何すかそれ。」「どうしたんだ、それ。」
ふたりとも同時に声をかけて、あれ。と顔を見合わさる。
「先生から言ってくださいよ。」
「じゃあ、歩きながら。お前もうバイトは終わりか?」
「そうっす。」
ふたりで同じ道をのんびり歩きながら半助はこれこれこういうわけで、と大家の話を少しおもしろおかしくして話してみせた。隣からきり丸が相槌をうちながら笑う。
「とまぁ、そういうわけだ。残念だったな、金になるもんじゃなくて。」
「本当ですよ。しかもその家って隣町のでっかい道とぶつかるちょっと手前のあの辺でしょう?遠いっすよ!ただ働きなんて考えらんね〜。」
「大家さんには頭があがらんからなー。で、どうしたんだ?そのかざぐるまは。」
きり丸の左手と供にぶらぶらと宙を泳いでいるかざぐるまを言うと、きり丸は歩きながらそれを自分よりも少し高く、半助に見えるようにかざしてから、右手で鮮やかな紙の端をつまんでみせる。半助も体を傾けてきり丸の肩から覗いた。
「動かないのか。」
「そうなんす。捨てるとか言うから勿体無くて。まぁー金にはなんないんすけど。家の中に飾っとくぶんには。」
回らなくてもせっかくきれいなんだし、ときり丸は続けた。
「糊が多かったんだろうなぁ、そのうち弱くなったら回るかもな。」
なんて言っているうちに長屋の前まで着いて半助はきり丸と離れて大家のもとへ。また少し家賃の滞納のことで怒られてから我が家の引き戸を開ければきり丸がそこに立ってにこっと笑った。
「ん?」
「ここにしました。」
半助が手をかけている少し先に、前から気になっていた少し深い板の隙間と横に打ちつけられている木材の間にかざぐるまが差し込まれて、きり丸に向かって小さくおじぎするような形に飾られていた。
「そうか、ここだったら風も入るしな。」
「ボロさゆえの隙間風もこれで役にたつっすね。」
じろっと半助が目を向けて
「悪かったな。」
と言ったら(やべっ)という分かりやすい表情をして
「いぃぃえぇ、そんなつもりで言ったんじゃないっすよ、別にー!隙間風さんのおかげで〜回りはじめたらすぐ売りに行けますもん!隙間風さいこー!」
あははと声を出して笑うきり丸にはぁ、とため息をつきかけて半助が止まる。
「なんだ、お前これ動くようになったら売るのか。」
「売らないでどうすんですか。」
そう返されてから(きり丸だもんな、そりゃ売るよな)と思い直してなんだか少し物足りないというか、寂しいというか、胸の底にそんな感情が湧いてくる。何でだろうと考えてみれば、この家には半助のものも一般のそれからすれば無いに等しいだろうが、きり丸の私物が極端に少なすぎるのだ。必要最低限。金になるものはすぐに売り飛ばしてしまうし、なんだかそれはとても悲しい。
「じゃあ、動きだしたらそのかざぐるまは私が買うよ。」
気がついたらそう言葉が口から出ていた。
「…はぁ…?」
「はぁとはなんだ、はぁ、とは。」
「いや、だって…」
「ここに飾っといたら、ふたりの家だって気がしないか?」
きり丸がその猫のように大きな瞳をぱちくりとさせて半助とかざぐるまを交互に見る。
「私たちは少し荷物が少なすぎるんだ。だから処分にも困らないし、いつだってすぐに大家さんはここを貸しに出せるわけだ。」
「はぁ…」
「別にただ物を増やしたいというわけじゃあないが、かざぐるまがあるだけでなんだかこの家の雰囲気が変わる気がするじゃないか。大家さんもいつものように私達を忘れて貸し出そうとする前に、これを見て、ここには独身の男前と年端もいかん働き者の子供がいるってことを思い出してくれるかもしれない。」
「…。」
きり丸は半助の言葉を聞いて、大家さんは忘れてるんじゃなくて先生が家賃払うのを忘れてるからだとか、独身はともかく自分で言う男前だとか、年端もいかん子供だとか、つっこみたいところは山々だといういうのになんだか胸を温かくさせる感情にじーんとしながら(ちょっと泣きそうだ)なんて思っていた。
「というわけで、このかざぐるまは私が予約させてもらおう。なっ。」
半助にそう言って頭にぽんと手をのせられて、普段なら子供扱いしないでくださいと拗ねるところだが、目頭がじんとするのでそのまま半助に倒れこむようにべたりとひっついて、ぎゅうと着物を握りしめた。
「おぉぉっ?どうした、きり丸。」
いつになく子供らしく素直に抱きついてくるきり丸に内心嬉しくてほっとしながら頭にのせた手をぽんぽんとしてやっていると、腹の方からぐずっと音が聞こえて
「べつに…先生の着物、なんか臭いっす。」
それから、…すこしだけ腹がたった。

絵をちぃと小さくしすぎた(うっかり)
ていうかムダに長くなっちゃった文章!ヒィ!こんな長いのにんたまでは書くつもりなかったのになぁ…
長い上にただの日常会話だよ(σ・∀・)σ
そしてやっぱりきりちゃんをうまく描けない…!うえに、髪の長さも違うとか気にしない(気にしろ)
2006−06−05